教員からのメッセージ

法学研究科担当教員からのメッセージ

谷川 和幸 講師


知的財産法の研究について

知的財産法とは、知的財産の保護を目的とする諸法の総称である。発明を保護する特許法、著作物を保護する著作権法、営業秘密やドメイン名を保護する不正競争防止法など、そこで保護される知的財産の種類は様々であり、またその保護の仕方も様々である。特許権や著作権のように「○○権」と名前の付いた権利を承認する法律がある一方で、不正競争防止法は権利を承認せず端的に一定の行為を違法なものとして差し止めの対象に服さしめている。知的財産法とひとくくりに呼ばれる諸法にもこのようなバリエーションがあり、それが理解の難しさにつながっている。

次のような話がある。長年の経験を積んだ弁護士さんがある時ふとしたきっかけで不正競争防止法の勉強を始めたところ、それ以降、不正競争防止法にかかわる相談が続々と舞い込んでくるようになったという。不思議な偶然もあるものだ、という見方ができる一方で、別の解釈も考えられる。すなわち、これまでにもその弁護士さんのところには不正競争防止法によって処理すべき紛争が持ち込まれていたはずなのに、不正競争防止法を知らなかったために、適切な対処ができていなかっただけなのかもしれない。(加藤新太郎「リーガル・リテラシーの諸相 第5回 思いつく」書斎の窓649号(2017年)3頁より) 保護の客体がアイディアや情報といった、手で触れることができる実体のないものであることから、これを保護する必要性や保護の範囲、実効性、そして過剰に保護してしまうことによって他の人に与える影響など、様々な課題が生じることになる。世界の多くの国は条約を締結しておおむね似たような内容の知的財産法制度を採用していることから、これらの課題はわが国のみならず各国でも同様に研究の対象となっている。

そのような各国の研究成果を読解し、批判的に検討することを通じて、わが国のみならず今後の世界の知的財産法制にインパクトを与え得るような研究者を目指す方、また、知的財産法制に深い洞察を持った実務家を目指す方が福岡大学大学院法学研究科の門戸を叩かれることを期待している。

労働法講義担当
所 浩代 教授


大学院に進学する意義

大学院では、学生が自分で研究するテーマを選び、そのテーマに関する研究論文を執筆します。たとえば、博士課程前期の場合は、指導教員と相談して研究テーマを選び、その後も適宜論文の構成等の指導を受けながら、概ね2年で論文を完成させます(博士課程後期の場合は概ね3年です)。また、研究論文を仕上げるためには幅広い法学や政治学の知識が必要ですので、学生は、自分の研究テーマとの関連などを考慮しながら、大学院で開講されている科目のなかから複数の科目を履修し、法学・政治学に関する専門的な知識を取得します。大学院の講義は、学部の講義と異なり、通常は、10人以下の小さなクラスで開講されます。教員は、受講生とコミュニケーションを活発にとりながら、授業を進行します。

このように、大学院では、自ら意欲的に知識を吸収することと(インプット)、研究成果を論文として形に残すこと(アウトプット)の2つが求められます。「学位」(前期課程:「修士(法学)」・博士後期課程:「博士(法学)」)は、この2つが揃ったと認められた者にのみ授与されるものです。学位取得までの道のりは決して楽なものではありませんが、私は、今でも、学位を授与されたときの興奮を覚えています。また、学位は、自分の力を客観的に示す指標ですので、その後の就職やキャリア形成においても、大変意味のある資格となりました。

法学研究科は、1965年に設置された大変伝統ある学科で、個性豊かな教員が所属し、日々熱心に教育活動と研究活動を行っています。また、法学研究科の講義は、図書館棟の6Fの明るく見晴らしの良い教室で行われています。大学院に所属する学生には、図書館棟内に勉強机が確保されますので、図書館での資料収集などに大変便利です。本学の大学院は、市内各所からのアクセスが良く、研究資料が充実し、教授陣との距離が近く、研究活動にのめりこむには最適な場所です。ぜひ、本学の法学部生はもちろんのこと、他学部の学生や社会人の方にも、キャリアアップの選択肢として、法学研究科への進学をご検討いただきたいと思っています。

労働法学の魅力

労働法学には、2つの重要な視点があります。一つは、職場において、労働者の一人一人が快適に自分の力を発揮するためには、どのようなルールが必要か?という視点です。労働契約をめぐる問題、労働紛争の解決の仕方、労働組合や従業員代表などの集団的な組織と使用者との関係構築のありかた等の研究は、この視点から始まるものです。労働法学におけるもう一つの重要な視点は、労働市場において、職を希望する労働者と雇用主とをうまくマッチングさせるにはどのような仕組みが必要であるか、というものです。グローバル化が加速する現代では、世界全体の動向をみながら、日本の労働政策の方向性を考えなければなりません。もちろん、現代に至るまでの法政策の変遷やそのような政策が選ばれた政治的・社会的背景も考慮する必要があります。

労働法学の魅力は、このように、労働者個人の気持ちや事情に寄り添うことが求められる研究領域がある一方で、世界全体を俯瞰でながめて国際労働社会の未来を提案するといった学際的な研究領域をも包含するというスケールの大きさにあります。労働法学の奥深さにどっぷり漬かる心意気をもつ方、一緒に、法学の新たな問題を解きに参りましょう!

山下 慎一 准教授


好きなことだけを、好きなだけ、勉強できる幸せ

私は、高校生の時、数学がとても苦手でした。その時に思っていたことは、「英語と国語だけを勉強できたら、どれだけ楽しいだろう」ということでした。大学で法学部に入ると、数学をしなくてよい開放感から、勉強が楽しくなりました。ただ、法学部の勉強でも、得意・不得意は出てきます。刑事系の科目が不得意だった私は、「自分が好きな法律科目だけを勉強できたら、どれだけ幸せだろう」と考えるようになりました。

大学院では、社会保障法を専攻しました。その中でも、本当に自分が興味を持てることだけを(具体的に言えば、イギリスの所得保障領域の不服審査制度の過去100年間の変遷とその背景にある「原理」のようなものの探求だけを)、勉強しました。そして、それは本当に幸せな時間でした。朝から晩まで(本当に文字どおり、朝から晩まで)、自分の読みたい本だけを読んで、知りたいことだけを調べました。必要があれば、指導教官にお願いして、外国から資料を取り寄せたてもらったり、あるいは実際にイギリスに行かせてもらったりしました。勉強に疲れたらサッカーをしました。したくない勉強はしませんでした。高校時代とはもちろん違い、そして学部生時代とも違い、好きなことだけを、好きなだけ、勉強しました。

学部と大学院との違いは、皆さんと教員との関係性においても顕著に現れます。

法学研究科の教員は、皆さんを、学生というよりはむしろ研究仲間として扱います。皆さんの持つどのような「基本的な」疑問に対しても、その疑問が真摯に考えられたものである限り、真摯に答えるか、少なくとも、ともに考える努力をします。あるいは、むしろ、皆さんから「教わろう」(それは決して「人間は何からでも教わることができる」というような抽象的な意味合いにおいてではなく、私の知らない最新の制度動向や、読んだことのない学説のことを、という極めて実践的な意味合いにおいてです)とさえ思っています。

上に書いたようなことを、「楽しそうだ」と感じた人、お待ちしています。

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